千葉県一周唱歌


原文 | 現代表記

[千葉縣一週唱歌] 鉄道唱歌の千葉県版と言うべき歌です。
千葉県師範学校講師、村山自疆先生作歌、明治41年発行。


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本家の鉄道唱歌とは少し違うメロディなのに注意!)

地理教育 千葉県一周唱歌(七五の調)  村山自疆作歌

一。
武蔵の国と下総の  (むさしのくにとしもふさの)
境を分くる隅田川  (さかいをわくるすみだがわ)
それは昔の物語  (それはむかしのものがたり)
今は両国停車場  (いまはりょうごくステーション)

二。
名に負う千葉の県下をば  (なにおうちばのけんかをば)
一周せんと汽車に乗り  (いっしゅうせんときしゃにのり)
本所、亀井戸跡に見て  (ほんじょ、かめいどあとにみて)
行けば程無く江戸川や  (ゆけばほどなくえどがわや)

三。
鉄の懸橋打渡る  (てつのかけはしうちわたる)
いざ此れよりぞ千葉県の  (いざこれよりぞちばけんの)
管内にこそ入りにけれ  (かんないにこそいりにけれ)
松戸は川の上流に  (まつどはかわのじょうりゅうに)

四。
商家の軒を連ねたり  (しょうかののきをつらねたり)
浜海道と海岸線  (はまかいどうとかいがんせん)
貫く所此処ぞかし  (つらぬくところここぞかし)
味醂に名高き流山  (みりんになだかきながれやま)

五。
醤油に名ある野田町は  (しょうゆになあるのだまちは)
皆この川に引続き  (みなこのかわにひきつづき)
荷物積み出す運送の  (にもつつみだすうんそうの)
便利も河の賜物ぞ  (べんりもかわのたまものぞ)

六。
市川駅のかなたには  (いちかわえきのかなたには)
音に聞ゆる鴻の台  (おとにきこゆるこうのだい)
北条、里見の古戦場  (ほうじょう、さとみのこせんじょう)
今は国守る野砲兵  (いまはくにもるやほうへい)

七。
営門高く固めたり  (えいもんたかくかためたり)
線路に近き桃林  (せんろにちかきももばやし)
梨の畑も実を結ぶ  (なしのはたけもみをむすぶ)
その収穫を思い遣り  (そのしゅうかくをおもいやり)

八。
八幡の森も知らなくに  (やわたのもりもしらなくに)
西より靡く塩竈の  (にしよりなびくしおがまの)
烟は何処行徳の  (けむりはいずこぎょうとくの)
里を遙に眺めつつ  (さとをはるかにながめつつ)

九。
日蓮宗の檀林と  (にちれんしゅうのだんりんと)
世に聞えたる中山の  (よにきこえたるなかやまの)
法華経寺も早や過ぎて  (ほけきょうでらもはやすぎて)
船橋、津田沼両駅の  (ふなばし、つだぬまりょうえきの)

一〇。
東に当る習志野は  (ひがしにあたるならしのは)
騎兵旅団の営所有り  (きへいりょだんのえいしょあり)
大砲小銃轟きて  (おおづつこづつとどろきて)
黒烟天を立蔽い  (こくえんてんをたちおおい)

一一。
駒に鞭ち駈け散らす  (こまにむちうちかけちらす)
敵は破ぶれ原頭の  (かたきはやぶれげんとうの)
昼の雄たけび消え失せて  (ひるのおたけびきえうせて)
静まる夜半の篝火は  (しずまるよわのかがりびは)

一二。
秋吹く風に打靡き  (あきふくかぜにうちなびき)
音さやさやに枯尾花  (おとさやさやにかれおばな)
寒き霜夜に狐鳴き  (さむきしもよにきつねなき)
最と物凄き狼の  (いとものすごきおおかみの)

一三。
啼く音をだにも片敷きて  (なくねをだにもかたしきて)
銃を枕に仮の夢  (じゅうをまくらにかりのゆめ)
臥すかとすれば吹すさぶ  (ふすかとすればふきすさぶ)
喇叭の声に目を覚まし  (らっぱのこえにめをさまし)

一四。
朝ふく風に翻える  (あさふくかぜにひるがえる)
旭日の御旗押立て  (あさひのみはたおしたてて)
隊伍をそろえ整整と  (たいごをそろえせいせいと)
歩調正しく進み行く  (ほちょうただしくすすみゆく)

一五。
練兵場の有様は  (れんぺいじょうのありさまは)
実に勇勇しくぞ見えにける  (げにゆゆしくぞみえにける)
幕張、稲毛の浜景色  (まくはり、いなげのはまげしき)
亦捨て難き眺望なり  (またすてがたきながめなり)

一六。
汽笛の響遠近に  (きてきのひびきおちこちに)
車止りも勇ましや  (くるまどまりもいさましや)
ここぞ千葉なる県庁の  (ここぞちばなるけんちょうの)
所在地とこそ知られたれ  (しょざいちとこそしられたれ)

一七。
師範、中学、医学校  (しはん、ちゅうがく、いがっこう)
裁判、郵便、交通の  (さいばん、ゆうびん、こうつうの)
旅団営所も立ち並び  (りょだんえいしょもたちならび)
市街の繁華双び無し  (しがいのはんかならびなし)

一八。
此処房総の分岐線  (ここぼうそうのぶんきせん)
野戦砲兵、衛戍地の  (やせんほうへい、えいじゅちの)
四ッ街道も早や過ぎて  (よつかいどうもはやすぎて)
佐倉町なる陸軍の  (さくらまちなるりくぐんの)

一九。
歩兵第二の連隊は  (ほへいだいにのれんたいは)
旧城内に屯せり  (きゅうじょうないにたむろせり)
宗吾神社も程近く  (そうごじんしゃもほどちかく)
印旛の沼は最と広し  (いんばのぬまはいとひろし)

二〇。
成田町なる不動尊  (なりたまちなるふどうそん)
護摩の烟も立なびく  (ごまのけむりもたちなびく)
汽車は分れて我孫子駅  (きしゃはわかれてあびこえき)
海岸線に引続く  (かいがんせんにひきつづく)

二一。
滑河ゆけば小御門の  (なめかわゆけばこみかどの)
神社を東に伏拝む  (やしろをひがしにふしおがむ)
香取神社は佐原町  (かとりじんしゃはさわらまち)
伊能忠敬の故郷とは  (いのただよしのこきょうとは)

二二。
測量地図に知られたり  (そくりょうちずにしられたり)
阪東太郎の名を得たる  (ばんとうたろうのなをえたる)
利根川通う往来の  (とねがわかようおうらいの)
出ふね入船最と繁し  (でふねいりふねいとしげし)

二三。
其の下流なる小見川も  (そのかりゅうなるおみがわも)
河舟集い賑わしし  (かわふねつどいにぎわしし)
さても総武の本線は  (さてもそうぶのほんせんは)
佐倉の東八街や  (さくらのひがしやちまたや)

二四。
開墾場と牧畜の  (かいこんじょうとぼくちくの)
駒も嘶く三里塚  (こまもいななくさんりづか)
成東駅は鉱泉場  (なるとうえきはこうせんば)
匝瑳の郡福岡の  (そうさのこおりふくおかの)

二五。
町を過ぐれば干潟なる  (まちをすぐればひかたなる)
八万石の稲葉吹く  (はちまんごくのいなばふく)
青田の風も余所に見て  (あおたのかぜもよそにみて)
夢路にたどる隧道の  (ゆめじにたどるトンネルの)

二六。
猿田越ゆれば銚子町  (さるたこゆればちょうしまち)
犬吠崎の灯台は  (いぬぼうざきのとうだいは)
海原遠く輝けり  (うなばらとおくかがやけり)
港に続く漁業場  (みなとにつづくぎょぎょうじょう)

二七。
その幸も亦最と多く  (そのさちもまたいとおおく)
釀造醤油の名も高し  (じょうぞうしょうゆのなもたかし)
ここ下総を一と週り  (ここしもふさをひとめぐり)
我が天皇の知し召す  (わがすめらぎのしろしめす)

二八。
大日本の国国の  (だいにっぽんのくにぐにの)
中に山無き国こそは  (なかにやまなきくにこそは)
此の土地のみと知られたれ  (このとちのみとしられたれ)
房総線の分れ路は  (ぼうそうせんのわかれじは)

二九。
吹く風寒き寒川の  (ふくかぜさむきさんがわの)
本千葉駅を発車して  (ほんちばえきをはっしゃして)
曽我野、生実を過ぎ行けば  (そがの、おゆみをすぎゆけば)
土気の隧道最と深し  (とけのトンネルいとふかし)

三〇。
大網自りは東金の  (おおあみよりはとうがねの)
町に分け入る支線あり  (まちにわけいるしせんあり)
その東方は九十九里  (そのとうほうはくじゅうくり)
地引網曳く鰯むれ  (じびきあみひくいわしむれ)

三一。
一と網ひけば一度に  (ひとあみひけばひとたびに)
千金の利を獲るとかや  (せんきんのりをうるとかや)
本納、茂原はや過ぎて  (ほんのう、もばらはやすぎて)
一の宮なる玉前の  (いちのみやなるたまさきの)

三二。
鳥居遙かにふし拝み  (とりいはるかにふしおがみ)
大東岬の頸部なる  (だいとうみさきのけいぶなる)
浜路に沿えば大原の  (はまじにそえばおおはらの)
海水浴も近きぬ  (かいすいよくもちかづきぬ)

三三。
汽車を下れば海岸の  (きしゃをくだればかいがんの)
彼方此方は都人  (かなたこなたはみやこびと)
立て連ねたる別荘の  (たてつらねたるべっそうの)
甍も高くほの見ゆる  (いらかもたかくほのみゆる)

三四。
湾内深き良港の  (わんないふかきりょうこうの)
名を得し夷隅の勝浦は  (なをえしいすみのかつうらは)
水産場の設あり  (すいさんじょうのもうけあり)
長汀曲浦の浜づたい  (ちょうていきょくほのはまづたい)

三五。
安房に来たれば小湊の  (あわにきたればこみなとの)
誕生寺は日蓮の  (たんじょうでらはにちれんの)
うぶ声揚げし所なり  (うぶごえあげしところなり)
天津の北に聳ゆるは  (あまづのきたにそびゆるは)

三六。
清澄山の峯続き  (きよすみやまのみねつづき)
房総一の高地たり  (ぼうそういちのこうちなり)
鴨川、北条早過ぎつ  (かもがわ、ほうじょうはやすぎつ)
館山町の波止場には  (たてやままちのはとばには)

三七。
東京通いの汽船あり  (とうきょうがよいのきせんあり)
里見の城址名を留め  (さとみのじょうしなをとどめ)
海水浴の西南  (かいすいよくのにしみなみ)
富士の高嶺や玉笥  (ふじのたかねやたまくしげ)

三八。
箱根の山もほの見えて  (はこねのやまもほのみえて)
風光明媚の勝地たり  (ふうこうめいびのしょうちたり)
官幣大社の安房神社  (かんぺいたいしゃのあわじんしゃ)
その創建を尋ぬれば  (そのそうけんをたづぬれば)

三九。
神武の御代と知られけり  (じんむのみよとしられけり)
海に臨める望樓の  (うみにのぞめるぼうろうの)
高く聳ゆる布良岬  (たかくそびゆるめらみさき)
行手を照らす灯明の  (ゆくてをてらすとうみょうの)

四〇。
台の光は野島崎  (だいのひかりはのじまさき)
岸打つ波も補陀洛や  (きしうつなみもふだらくや)
那古観音の霊場も  (なこかんのんのれいじょうも)
勝山町も行過ぎぬ  (かつやままちもゆきすぎぬ)

四一。
八犬伝を読みて知る  (はっけんでんをよみてしる)
富山東に峙てり  (とみさんひがしにそばだてり)
保田の北なる房総の  (ほたのきたなるぼうそうの)
境を分くる鋸山  (さかいをわくるのこぎりやま)

四二。
港町より天神山  (みなとまちよりてんじんやま)
弐里を隔て鹿野山  (にりをへだててかのうざん)
九十九谷の仙境も  (くじゅうくたにのせんきょうも)
友呼ぶ鹿の声高し  (ともよぶしかのこえたかし)

四三。
佐貫の西は富津の洲  (さぬきのにしはふっつのす)
東京湾の要塞地  (とうきょうわんのようさいち)
木更津町は上総にて  (きさらづまちはかずさにて)
屈指の土地と聞えたり  (くっしのとちときこえたり)

四四。
流も清き小櫃川  (ながもきよきおびつがわ)
姉ヶ崎をも早過ぎて  (あねがさきをもはやすぎて)
朝日に匂う山桜  (あさひににおうやまざくら)
並樹の花も数多き  (なみきのはなもかずおおき)

四五。
五井の浜辺を跡に見て  (ごいのはまべをあとにみて)
八幡町なる飯が岡  (やわたまちなるいいがおか)
八幡宮に手向しつ  (はちまんぐうにたむけしつ)
浜野、五田ッ保来てみれば  (はまの、ごたつほきてみれば)

四六。
甘藷くず作る製造所  (いもくずつくるせいぞうしょ)
軒を連ねて並びたり  (のきをつらねてならびたり)
矢なみつくろう武士の  (やなみつくろうもののふの)
君待橋を打渡り  (きみまつばしをうちわたり)

四七。
長洲を出て猪鼻の  (ながずをいでていのはなの)
丘に登れば袖が浦  (おかにのぼればそでがうら)
波も静かに真帆片帆  (なみもしずかにまほかたほ)
鏡の上を往来し  (かがみのうえをおうらいし)

四八。
宛がら絵図の風致あり  (さながらえずのふうちあり)
羽衣懸けし公園の  (はごろもかけしこうえんの)
池のみぎわの松を見て  (いけのみぎわのまつをみて)
千葉町にこそ立返えれ  (ちばまちにこそたちかえれ)

四九。
鉄道陸路とり交ぜて  (てつどうくがちとりまぜて)
上総下総房州の  (かずさしもふさぼうしゅうの)
三箇国をば巡回りけり  (さんがこくをばめぐりけり)
抑も千葉県の地勢たる  (そもちばけんのちせいたる)

五〇。
郊野は広く山低し  (こうやはひろくやまひくし)
半島三国海に沿い  (はんとうさんごくうみにそい)
南に出づる土地なれば  (みなみにいづるとちなれば)
農、水、林の三業に  (のう、すい、りんのさんぎょうに)

五一、
酒と醤油の釀造は  (さけとしょうゆのじょうぞうは)
重要なる富の基たり  (おもなるとみのもといたり)
特種の商売繁盛と  (とくしゅのしょうばいはんじょうと)
呼ばるる都会は無けれども  (よばるるとかいはなけれども)

五二。
海と河とに沿える地は  (うみとかわとにそえるちは)
人文殊に開けたり  (じんぶんことにひらけたり)
猶この上の前途をば  (なおこのうえのぜんとをば)
希望弥増す千葉県下  (のぞみいやますちばけんか)

五三。
負擔ふ第二の国民と  (になうだいにのこくみんと)
末頼もしき学校の  (すえたのもしきがっこうの)
教えを受くる生徒達  (おしえをうくるせいとたち)
朝な夕なに怠らず  (あさなゆうなにおこたらず)

五四。
親の養育師の指導  (おやのよういくしのしどう)
堅く守りて一と筋に  (かたくまもりてひとすじに)
勉めよ励め君の為  (つとめよはげめきみのため)
励めよ勉め国の為  (はげめよつとめくにのため)

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