「萌え」を他の言葉で言い換えてみる

2004/10/26

ネット俗語である「萌え」という言葉を他の言葉で言い換えてみるなら、何と言うべきか。昔から時々考えていたことである。

この言葉を私が初めて知ったのは1994年末頃、つまり今から十年前のことであるが、当時は「何かに熱中したり、好きなもの憧れたりするものに対して用いる動詞」と説明されていた。十年来、どのネット俗語辞典を見ても、大抵はそのように解説されている。

しかしこの「萌え」という言葉の持つ意味の奥深さは、単なる「何かに熱中」とか、私がこれまで解説してきた「悶絶するほど大好き」とかでは言い表せない。最近ニュースメディアが一般人に解説する「かわいいという意味の俗語」というのも、簡潔だけど何か足りない。この言葉は時々冗談交じりに「侘(ワビ)、寂(サビ)、萌え」と言われることがあるが、これはつまり、「萌え」という概念を知らない人に他の言葉で言い換えて説明することは、外国人に「詫び寂び」の意味を教えるのと同じくらい難しいということである。

しかし最近、ちょうどぴったり当てはまりそうな言葉が、ふと頭に浮かんだ。「壺(つぼ)に嵌(は)まる」である。

幾つか例を挙げてみる。たとえば「(アニメのヒロインの)さくらちゃん萌え〜」というのは、「さくらちゃんは、まさに私の好みのツボにハマる可愛さで、もう熱烈に大好き」という意味である。「女の人が髪をかき上げる[あるいは、男の人が助手席に手を掛けながら車をバックさせる]仕草に萌える」というのは、「そういう仕草が、まさにツボにハマるほど美しくて、胸がときめいてしまう」という意味である。「フォルクスワーゲンの水平四気筒エンジンの音に萌え」というのは、「あのポコポコいうエンジン音キタ――(゚∀゚)――ッ!!」とか「いやはや、この音こそ、私が聞きたかったあのエンジン音なのだ!!涙がチョチョ切れるくらいとても懐かしい!!」とかそんなところだ。

とは言え、最初にも書いたように、「萌え」という言葉の多様な意味は、この「ツボにハマる」という言葉ではとても言い尽くせない。しかし、今現在この語があらかたどのような意味で用いられるのかを理解する上での“補助線”くらいにはなるのではないかと思う。どちらかというと「いとをかし」「もののあはれ」に近い、健全な愛着の気持ちを込めて使われようが、恋愛感情や時にエロティシズムを込めて使われようが、いずれにしても「ある物事が自分の好みの勘所をちょうど押さえていて、それに燃えるほど熱烈に魅了される」というような雰囲気が基底にあるのである。そして、その「自分の好みの勘所」を意識しているというのが、マニアがマニアたり得るゆえんであろう。

……と締めくくろうとしたが、書いている途中で「萌え」「ツボ」でググってみたら、私と同じような解説を書いていた人が他にもいたことを発見。まあ、同じ事考えてる人は他にもいるもんだ。

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