蓄音機のしくみ


 これからこのポータブル蓄音機を分解してみましょう。ポリドール NP-30というモデルです。
 アームと、ぜんまいを巻くハンドルは、左奥の穴の中にしまえるようになっています。

 まず、ターンテーブルを外してみます。回転軸の中心から見て右下にあるレバーは、ターンテーブルの回転を止めるためのもので、自転車のブレーキパッドと原理は同じです。
 さて、右上にあるのは何かというと、どうやらオートストップ(レコードが終わると自動的にストップする)ではないかと推測しますが、詳細は不明です。


 次に、ねじを外して上の機械部分を取り外してみます。(ぜんまいを巻くハンドルは、穴の位置をわかりやすくするためにわざと入れて撮影してあります)
 アームの根元部分からU字形のダクトが通っていて、アームをしまう穴の部分まで通じています。実は、あのアームをしまう穴は、針から拾った音の出口でもあったのです。
 このように、蓄音機では、針から拾った小さな振動が、共鳴箱で増幅され、その大きな音が箱の開口部から出るようになっています。
(あれ?蓄音機ってラッパを付けるんじゃないの、と思った方へ。蓄音機と言うと、ビクターのトレードマークみたいなラッパ型蓄音機を連想する人が多いと思いますが、実際にはラッパ無しの方が多数派です。音質を追求した結果だと思います。)
 このような蓄音機と、電気増幅による現代のレコードプレーヤとの関係は、アコースティックギターとエレキギターのようなもの、と説明すればわかりやすいでしょう。前者は小さな振動を共鳴箱で増幅して大きな音を出しますが、後者は拾った微弱な振動を電気信号に変換し、アンプで増幅してスピーカから音を出します。しかも蓄音機の共鳴箱はただの空洞の箱ではなく、くねくねと曲がった長いダクトになっていて、この構造がちょうど効率よく音を増幅してくれているのです。


 機械部分の裏側です。ぜんまいでターンテーブルを回すわけですが、構造としてはオルゴールに似ていて比較的シンプルです。機械いじりの得意な方なら、油を差す程度のメンテナンスはお茶の子さいさいです。
 下に、四方向から見た写真もあります。
(1)ガバナー(調速機)。重りが回る速度により遠心力が変わることを利用して速度調節します。また、ターンテーブル左下にある速度調節ねじは、写真左下のテコにつながっていて、速度上限のリミッターをかける構造になっています。
(2)手前の歯車は、ぜんまいを巻くハンドルの軸につながっており、この歯車によりぜんまいが巻かれます。
(3)右下の管は、ぜんまいを巻くハンドルの入る穴。
(4)ぜんまいと歯車。




 サウンドボックスです。これをアームに付けて使います。
 先に鉄針をねじで留めて使います。針が音溝をトレースすると、テコの原理でその振動が拡大されて、サウンドボックスの振動体を大きく振動します。その音はアームを通って箱の中を通り、開口部から結構大きな音で出力されます。

 蓄音機の音は予想以上に大きいもので、しかも電気増幅を全く使っていないシステムで、こんなに大きな音がいとも簡単に出てしまうのは正に驚きです。アパートで夜鳴らすには近所迷惑になりそうなほどですし、粋なBGMとして利用しようにも、みんなのおしゃべりをかき消すほど大きなBGMでは使い物になりません。それくらい大きいのです。
 戦時中に、御法度だったジャズのレコードを、押し入れで布団をかぶって聴いた、というような話を時々聞きますが、蓄音機の音を一度聞くと、その音のあまりの大きさに、なるほどと納得できるはずです。


 ポータブル蓄音機には、蓋の裏にレコードホルダーが付いています。上にはちゃんと留め金も付いていて、落ちないようになっています。



 蓄音機は、このような鉄針で聴くのが一般的です(他にも植物のトゲのソーン針、竹針などがある)。実物を一度もご覧になったことのない方は、コンパスの針を想像してみれば近いと思います。
 一回きりの使い捨てですが、現在200本で千円程度なのでケチらず毎回交換しましょう。
 使い終わった鉄針は安全なところに入れて捨てましょう。私はサクマドロップスの缶に小さな穴を空けて使用済み鉄針入れにしています。


 ぜんまいを巻き、ターンテーブルのストッパーを解除したら、いよいよ針を下ろす緊張の一瞬。(ここを持つのはよくないかもしれない……どなたか正しい針の下ろし方を教えてください→2006/10/31追加:この持ち方は、部品破損の可能性があるので、あんまりよろしくないようです。サウンドボックス自体を持って針を下ろせば良いのだとか。いずれ写真を差し替える予定です。教えてくださった蓄音小僧様、ありがとうございます。)
 針音が聞こえ始めたら、いよいよ曲の始まりです。



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