きちがい 誰もがきちがいになり得る

 他人の書いている文章を読んで気になるのが、「きちがい」という言葉を「きち○い」「キ××イ」等、わざと伏せ字にしていることが多いことである。何かやましいことでもあるのか、やましいことなどなければ堂々と伏せ字を外して書け、と言いたくなる。

 そもそも「きちがい」とは、どんな意味なのだろうか。広辞苑には

きちがい【気違い】《国》〈名〉(1)考えや行動が正常(セイジョウ)でないこと(・人)。[類]狂人(キョウジン) (2)何かにすっかり夢中(ムチュウ)になること。また、そのような人。「野球―」[類]→マニア

 また、ユニークな解説でおなじみの、三省堂「新明解国語辞典」での「きちがい」の定義も参考として挙げておく。

きちがい【気違(い)】[一](3)常人とは異なる精神世界に住し、その言動が常識とは相容(イ)れない・こと(人)。〔精神病・精神分裂症(にかかっている人)の俗称としても用いられる〕「―に刃物」
[二](造語)度を過ごして物事に熱中する・こと(人)「本―(4)(3)」[表記]「気《狂い」とも書く。

 いつもは「新明解」の解説は話半分で読んでいるが、この説明に限っては的を射たものだと思う。そう、「きちがい」と「精神病」「精神分裂症」は、全くイコールではない。元々、「平常心を失って奇妙な行動をすること・人」全般を指す言葉であり、マスコミや出版社が自主規制をする前は「きちがい」という言葉は普通に使われていたが、多くは精神病患者の意味ではなく、例えばヒステリーなど、健常者が一時的に平常心を失って奇怪な行動をしていることを指していたのを思い出す。

 もちろん私は、「きちがいみたいなことする奴は黄色い救急車にでも連れてかれちまえ」みたいな発言まで、よしとしているのではない。品がなくて、「黄色い救急車」みたいな迷信や偏見を煽るような発言は、やはり慎むべきだろう。

 しかし、「きちがい」と「精神病」「精神分裂症」は同じものではない。「きちがい」という言葉をタブー語とすることの背景には、この語の広い意味を知らず、対象範囲を勝手に狭めていることがあるのだろう。


「馬鹿」が良くて「きちがい」は駄目?

 昔のテレビ番組や映画で、今では言葉狩りで消されてしまう言葉のワースト1が、この「きちがい」である。しかし、なぜワースト1なのだろう。それは、「きちがい」は「馬鹿」と同じくらい多用された言葉だからである。もし、今のテレビ番組や映画などで湯水のように使われている「馬鹿」という言葉が、突然“使えなく”なってしまった状況を想像していただきたい。ほとんどの作品が該当するだろう。それに近い状況が、昭和50年代前後に起こったのだ。そう考えると、なるほど、と思うだろう。

 「きちがい」の使われ方と「馬鹿」の使われ方は、比較的似通っている。前者は正気を失った状態、後者は愚かな行動をしている状態、と意味は異なるものの、どちらも、いわゆる「頭がおかしい」状態を表す語である。俗には精神病患者や知的障害者のことを「きちがい」「馬鹿」と呼ぶ事もあるものの、用例の多くはむしろ、そうでない人々に対してよく見られる。マニアのことを「きちがい」「馬鹿」(例えば「釣りきちがい(釣りキチ)」と「釣りバカ」)と呼ぶのも共通している。人に対して「きちがい」「馬鹿」と直截に言うのが露骨過ぎる場合は、「〜みたいな」、「まるで〜」とか「きちがいじみた」「馬鹿げた」のように和らげることもしばしば行われる。

 果たして、「馬鹿」が良くて「きちがい」は駄目とする基準の根拠はどこにあるのだろうか。


詞藻

平常心を失う

きちがい(気違い・気狂い)狂気狂気の沙汰正気の沙汰でない狂乱乱心異常ヒステリー正気を失う気が違う気が狂う気が触れる発狂する狂態を演じる血迷う逆上するマッド〜(マッドサイエンティスト)

平常心を失った人

狂人狂者パラノイド(平常から外れた妄想を抱く人について)・サイコ、サイコパス(異常者というニュアンスあり)

熱狂的な趣味者

愛好家ファンフリークマニア気違い(野球気違い)・〜キチ(カーキチ、釣りキチ)・〜狂(野球狂、スピード狂)・〜バカ(釣りバカ)・〜の虫(本の虫、点取り虫)・〜の鬼(野球の鬼、ボクシングの鬼)・〜中毒(活字中毒)・おたく(肯定的にも否定的にも用いられる)・酔狂な奴(物好きな変わり者の意)

英語

crazy, mad, insane, lunacy(LUNA SEAというロックグループはこの語をもじったもの), lunatic(lunacyもlunaticもラテン語で月を意味するlunaに由来、かつては狼男の伝説のように、月の光を浴びると気が狂うと思われていた。なお、ヒステリーhysteryはラテン語で子宮hysteraに由来する), psychopath, psychotic


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