「茶目子の一日」は昭和6年に映画化されました。
この映画は、プラネット映画資料図書館からビデオが出てゐます。
夜が明けた 夜が明けた 夜が明けた 夜が明けた 夜が明けた 夜が明けた もう夜が明けた もう夜が明けた 明けた明けたと早起の 雀はお庭の松の木で チユツチユク チユツチユク チユツチユク チユツチユク 唱歌のお稽古 |
「唱歌」。 この言葉、今ではめつきり使はれなくなりましたね。 |
お隣の物干の上から おてんとさまが 真赤なお顔を一寸(ちょいと)出して 茶目ちやんお早う 御機嫌やう | |
向ふの横丁から いつものお婆さんが 納豆 納豆 納豆 納豆 味噌豆 とやつて来る | |
(台詞) ♪ 母 サアサアサア茶目子さん、もう七時ですよ、學校がおくれますよ 茶目子 アラ私まだ眠いワ、お母様お早うございます 母 サア着物を着て仕舞ったら、早くお顔を洗つていらつしやい 茶目子 ハイ |
「あら私まだ眠いワ」の眠さうな声がとても可愛いくて、しびれて仕舞ひます。 でもすぐにシヤキツとして「お母樣お早うございます」となるところが、また可愛い。 平井英子の声の魅力が一番よく出てゐるところです。 蛇足ですが、昭和40年に発売されたカヴアー版では「着物」ではなく「洋服」になつてゐるやうです。 |
水道の冷たいお水を金盥(かなだらひ)へ ザブザブザブト汲みこんで ライオン齒みがきで齒をみがき シャボンのあぶくをタオルへつけて ポロリと洗へばお顔はサツパリ 今度ははつきり眼が覺めた |
これは罐(かん)入りのライオン齒磨のことでせうか? なほ、ライオンのウヱブサイトにある昔の資料は、とても興味深いです。 |
(台詞) 母 サア御飯が出来てゐますよ、早くおあがりなさい 茶目子 アア忙しい忙しい、頂きます | |
お膳の上にはお茶碗とお箸 赤い箸箱小さなお椀 お椀の中には私の好きな 卵のお汁(つけ)が入ってます お汁(つけ)は御飯にかけたいけれど 中々熱くて食べられない やっぱり別々に食べませう お皿にあるのは葡萄(ぶだう)豆 同じ豆でも納豆は 私にや くさくて食べられない 豆を食べたらその次は 澤庵のおかうこ お茶漬さらさら おかうこばりばり さらさらばりばりもう澤山 お母様御馳走様 おお苦しい |
茶目ちやんの朝食は御飯と卵のお汁。 お汁を御飯にかけて食べるのは昔からある庶民的な食べ方なんですね。 茶目ちやんはお母樣に「そんな食べ方、はしたないですよ」と云はれたのでせうか。 ところで、卵のお汁つて、かき玉入りのお吸ひ物のことでせうか。 朝食に卵が出るところといひ、電車通學するところといひ、茶目ちやん家は中産階級なのかもしれません。 |
(台詞) 母 マア苦しい程食べなくてもいいぢやありませんか、サア食休みをしたら早く學校へいらつしやい 茶目子 それぢやお母さま行つて參ります 今日は時間が早いから 電車に乘らずに歩きませう 廣い通りは賑やかで いいけどうつかり歩けない 自動車ブツブツブツおお恐い やっぱり足袋屋の横丁を 曲つて近道行きませう あれあれポチがついて来た 此処(ここ)からお歸んなさい ポチ ポチ ポチ |
この「電車」とは、都電のことではないかと言はれてゐます。大正時代には、都電がもう走つてゐたさうです。 それにしても、足袋屋とは時代を感じさせる言葉。 |
(台詞) 先生 エヽ皆さん、これから算術をやります。茶目子さん此の問題を考へて御覽なさい 先生 一本三錢の鉛筆を三本買ったら いくらになりますか 茶目子 三々が九ですから みんなで九錢になります 先生 それはよく出來た 今度は讀本をやりませう | 二村定一先生の登場です。 「♪一本三錢の……」とユーモラスに歌つてゐるところは、聽き所です。 |
(台詞) 先生 「茶目子さん、釜盗人を読んで御覽なさい 茶目子 ハイ 此の釜はお前のものに相違はあるまい 早速持つて歸れ 茶目子 と申しました ゐざりは大層喜んで 其の釜を頭にかぶつて兩手をついて ゐざりだしました 茶目子 役人は後から声をかけて、 こら待てゐざり 釜盗人は其方に極つたぞ 茶目子 と言つて、 下役共に言ひ付けて 縛らせました 先生 あゝ大層よく出來ました、今日はこれで御仕舞にします |
なお、この部分は、「ゐざり」といふ言葉がPolitical Correctnessに合はないといふ理由からか、CD復刻版では“GHQ的檢閲處理”により一部省略されてをります。 (このやうな例は他にも、笠置シヅ子の「買物ブギー」も、最後の落ちの「わしやつんぼできこえまへん」が、CD復刻版では「わしやきこえまへん」になつてゐるとのこと。) 小節の效いた(?)難しいメロディですが、ちゃんと歌ひ上げてゐます。 |
(台詞) 茶目子 母ア様只今、今日はネ、學校で讀本が大層よく出來たって褒められたのよ 母 さう、それはようござんしたネ 茶目子 其の御褒美に活動へ連れてつて頂戴な 母 マアずるい茶目子さんネ、それぢや晩に行きませうネ | |
活動寫眞は面白い いくら見てもまだ見たい (台詞) 説明者 エヽだまし討ちとは卑怯のしれもの、よらば斬るぞ。腰をひねれば紫電一閃、闇にひらめく、剣撃のひゞき 今度の日曜又來よう |
茶目子さんは活動寫眞が大好きなやうですね。
しかもチヤンバラものが好きだとは。 「あゝ玉杯に花うけて」を讀むと、当時、活動とか洋食屋に出入りするのは、どちらかといふと俗惡な趣味とされてた時代。 でも茶目ちやんは親同伴なので大丈夫なんでせうね。 ちなみに、大正8年の木村時子版ではチヤツプリンの映画が終つたところといふ設定、昭和8年の飯島綾子版では台詞が省略されてゐます。 |