茶目子の一日

茶目子の一日 レコード

「茶目子の一日」とは何ぞや

 「茶目子の一日」は、大正時代の小學生の女の子、茶目子ちやんが朝起きて朝食を食べ、學校に行つて授業を受け、晩に活動写眞を見に行くといふ一日の樣子を、歌とセリフで綴つたとても樂しい歌です。
(このやうな歌とセリフを交へて物語を語る童謠は、「お伽(とぎ)歌劇」と呼ばれてゐました。かの有名な寶塚歌劇も、(昭和に入りシャンソンたつぷりの西洋風歌劇になる以前の)大正時代は、桃太郎などおとぎ話をベースにしたお伽歌劇が上演されてゐたさうです。)
 何度かレコード化及びCD化もされてゐますが、特に昭和4年に発売された平井英子版が一番有名です。 童謠歌手、平井英子の舌つ足らずだけどかはいい歌、平井英子と高井ルビーの掛合ひ、二村定一演じるユーモラスな先生など聴き所たつぷりの曲です。 また当時童謠はピアノやヴアイオリンなどの伴奏で吹込まれることが多かつたのですが、これは生き生きとして樂しいオーケストラによる伴奏だつたのが特徴でした。

 私が初めてこの曲を聴いたのは8年くらい前、NHK第一放送で土曜日に放送してゐた「ウィークエンドリクエスト」でした。 その時は茶目ちやんが朝食を食べるところまでしか流してくれなかつたのですが、(こんなに樂しいオペレッタがあつたのか!)と、とても感動したのを今でも覺えてゐます。
 しかしその時録音したテープは消してしまつたので、(いつかまた一度「茶目子の一日」を聞いてみたい!)と、ずつと思つてゐました。 時は流れ、1997年。 神田のある中古SPレコード店に入ると、そこにあつたのは、かなり厖大(ぼーだい)な量のSP音盤。 (もしかしたら、「茶目子の一日」のSP音盤もあるのでは?)と思ひつつ、「童謠」コーナーにある、シェラックでできた厚ぼつたい音盤を一枚一枚探してゐました。 もし発見したらすぐ購入して、隣の秋葉原でSPレコードのプレーヤも調逹しよう、なんて野望が急にわき上がつてきたのです。
 しかし「茶目子の一日」の音盤は全くなし。 あきらめかけて帰らうとしたその時、壁側に懷メロCDのコーナーを発見。 うれしいことに、その中に「茶目子の一日」の收録されたCDがあつたのです。 すぐレジへ向つたのは云ふまでもありません。
 「茶目子の一日」ファンの皆さん、是非仲間になりませう。


漫画映画版

 「茶目子の一日」は昭和6年に映画化されました。
 この映画は、プラネット映画資料図書館からビデオが出てゐます。


藤原カムイの漫画「茶目子」

 殘念ながら絶版ですが、最近入手したのでここに紹介します。


「茶目子の一日」一覧表

1、SP 日蓄(ニッポノホン)大正8年 木村時子 天野喜久代 加藤 清
2、SP 同上  大正?年 木村時子 高井ルビー 柳田貞一
3、SP ビクター 昭和4年 平井英子 高井ルビー 二村定一
4、SP コロムビア 昭和8年 飯島綾子 三好久子 中野忠晴
5、EP キング 昭和40年 楠トシエ 友竹正則
6、カセットテープ 平成7年 3、の音源
7、CD 同上
8、CD 東芝EMI 平成8年 高橋クミコの3役
9、CD ビクター 平成8年 3、の音源


 蓄音機で聞くSPレコード鑑賞会のタネイタさんから情報をいただきました。 此の場をお借りして感謝いたします。

 ちなみに私は3、4、8、9(現物)及び1、2(音盤をお持ちの方からコピーさせていただいたもの)を持つてゐます。5、も私は探してゐるのですが、かなり入手困難です。
 レコードやテープでお持ちの方、是非ご一報ください。

童謠唱歌「茶目子の一日」
作詞、作曲 佐々紅華
獨唱 平井英子
台詞 高井ルビー、二村定一
伴奏 日本ビクター管弦團
夜が明けた 夜が明けた
夜が明けた 夜が明けた
夜が明けた 夜が明けた
もう夜が明けた もう夜が明けた
明けた明けたと早起の
雀はお庭の松の木で
チユツチユク チユツチユク
チユツチユク チユツチユク
唱歌のお稽古
「唱歌」。
この言葉、今ではめつきり使はれなくなりましたね。
お隣の物干の上から おてんとさまが
真赤なお顔を一寸(ちょいと)出して
茶目ちやんお早う 御機嫌やう
向ふの横丁から
いつものお婆さんが
納豆 納豆 納豆
納豆 味噌豆 とやつて来る
(台詞) 
 サアサアサア茶目子さん、もう七時ですよ、學校がおくれますよ
茶目子 アラ私まだ眠いワ、お母様お早うございます
 サア着物を着て仕舞ったら、早くお顔を洗つていらつしやい
茶目子 ハイ
「あら私まだ眠いワ」の眠さうな声がとても可愛いくて、しびれて仕舞ひます。
でもすぐにシヤキツとして「お母樣お早うございます」となるところが、また可愛い。
平井英子の声の魅力が一番よく出てゐるところです。
蛇足ですが、昭和40年に発売されたカヴアー版では「着物」ではなく「洋服」になつてゐるやうです。
水道の冷たいお水を金盥(かなだらひ)へ
ザブザブザブト汲みこんで
ライオン齒みがきで齒をみがき
シャボンのあぶくをタオルへつけて
ポロリと洗へばお顔はサツパリ
今度ははつきり眼が覺めた
これは罐(かん)入りのライオン齒磨のことでせうか?
なほ、ライオンのウヱブサイトにある昔の資料は、とても興味深いです。
(台詞)
 サア御飯が出来てゐますよ、早くおあがりなさい
茶目子 アア忙しい忙しい、頂きます
お膳の上にはお茶碗とお箸
赤い箸箱小さなお椀
お椀の中には私の好きな
卵のお汁(つけ)が入ってます
お汁(つけ)は御飯にかけたいけれど
中々熱くて食べられない
やっぱり別々に食べませう
お皿にあるのは葡萄(ぶだう)豆
同じ豆でも納豆は
私にや くさくて食べられない
豆を食べたらその次は
澤庵のおかうこ
お茶漬さらさら おかうこばりばり
さらさらばりばりもう澤山
お母様御馳走様 おお苦しい
茶目ちやんの朝食は御飯と卵のお汁。
お汁を御飯にかけて食べるのは昔からある庶民的な食べ方なんですね。
茶目ちやんはお母樣に「そんな食べ方、はしたないですよ」と云はれたのでせうか。
ところで、卵のお汁つて、かき玉入りのお吸ひ物のことでせうか。
朝食に卵が出るところといひ、電車通學するところといひ、茶目ちやん家は中産階級なのかもしれません。
(台詞)
 マア苦しい程食べなくてもいいぢやありませんか、サア食休みをしたら早く學校へいらつしやい
茶目子 それぢやお母さま行つて參ります

今日は時間が早いから
電車に乘らずに歩きませう
廣い通りは賑やかで
いいけどうつかり歩けない
自動車ブツブツブツおお恐い
やっぱり足袋屋の横丁を
曲つて近道行きませう
あれあれポチがついて来た
此処(ここ)からお歸んなさい
ポチ ポチ ポチ
この「電車」とは、都電のことではないかと言はれてゐます。大正時代には、都電がもう走つてゐたさうです。
それにしても、足袋屋とは時代を感じさせる言葉。
(台詞)
先生  エヽ皆さん、これから算術をやります。茶目子さん此の問題を考へて御覽なさい

先生 一本三錢の鉛筆を三本買ったら いくらになりますか
茶目子 三々が九ですから みんなで九錢になります
先生 それはよく出來た 今度は讀本をやりませう
二村定一先生の登場です。
「♪一本三錢の……」とユーモラスに歌つてゐるところは、聽き所です。
(台詞)
先生 「茶目子さん、釜盗人を読んで御覽なさい
茶目子 ハイ

此の釜はお前のものに相違はあるまい
早速持つて歸れ

茶目子 と申しました

ゐざりは大層喜んで 其の釜を頭にかぶつて兩手をついて ゐざりだしました

茶目子 役人は後から声をかけて、

こら待てゐざり 釜盗人は其方に極つたぞ

茶目子 と言つて、

下役共に言ひ付けて 縛らせました

先生 あゝ大層よく出來ました、今日はこれで御仕舞にします
 なお、この部分は、「ゐざり」といふ言葉がPolitical Correctnessに合はないといふ理由からか、CD復刻版では“GHQ的檢閲處理”により一部省略されてをります。
(このやうな例は他にも、笠置シヅ子の「買物ブギー」も、最後の落ちの「わしやつんぼできこえまへん」が、CD復刻版では「わしやきこえまへん」になつてゐるとのこと。)
 小節の效いた(?)難しいメロディですが、ちゃんと歌ひ上げてゐます。
(台詞)
茶目子 母ア様只今、今日はネ、學校で讀本が大層よく出來たって褒められたのよ
 さう、それはようござんしたネ
茶目子 其の御褒美に活動へ連れてつて頂戴な
 マアずるい茶目子さんネ、それぢや晩に行きませうネ
活動寫眞は面白い
いくら見てもまだ見たい

(台詞)
説明者 エヽだまし討ちとは卑怯のしれもの、よらば斬るぞ。腰をひねれば紫電一閃、闇にひらめく、剣撃のひゞき

今度の日曜又來よう
茶目子さんは活動寫眞が大好きなやうですね。 しかもチヤンバラものが好きだとは。
「あゝ玉杯に花うけて」を讀むと、当時、活動とか洋食屋に出入りするのは、どちらかといふと俗惡な趣味とされてた時代。 でも茶目ちやんは親同伴なので大丈夫なんでせうね。

ちなみに、大正8年の木村時子版ではチヤツプリンの映画が終つたところといふ設定、昭和8年の飯島綾子版では台詞が省略されてゐます。

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このペイジは、舊字體變換ツール「丸谷君」(「拔本的」にてダウンロード可能)および、THn氏による正字正假名辭書(「戈寛智房」にてダウンロード可能)を用ゐて作成しました。