國産萬年筆を愛用しませう

 万年筆は必ずしもブルジョアのステータスシンボルではありません。今でこそボールペンに押されてあまり使われなくなってきたものの、かつては学生や会社員をはじめ、誰もが使う庶民の筆記具でもありました。

 このページでは、庶民的価格帯の万年筆を探している人や、万年筆を日常的に使う人のためのミニ情報を提供していく予定です。


万年筆を選ぶ

 万年筆に何万円かけても懐が痛まない人は、この項は飛ばしましょう。値が張るものはそれだけ書き心地は良いらしいですが、残念ながら私は一万円オーバーの万年筆を使った事がありません。貧乏でごめんなさい。

 さて、庶民的価格帯の万年筆ですが、当たり外れがあるものです。結論から先に言うと、1,000円以下の廉価万年筆は、デスクペンを除き、あまり実用には向きません。

 まず、数百円で売られている万年筆は要注意です。ペン先からインクが漏れやすいものや、キャップの密閉性に問題があって、ペン先のインクがすぐ固まって出なくなるものが時々あります。

 舶来品ではパーカーの千円万年筆もよく売られていますが、「細字」と書かれている割には字が太いので気を付けましょう。私も、普段使っている細字のプラチナ万年筆の二倍は太い字だったのでビックリしました。書き味は昔の「パーカー45」という廉価な万年筆にやや似ているものの、もうちょっと安っぽい感じです。正直言うと、私は廉価版パーカーの書き味はあまり好きではありません。ペン先を見るからに、高級モデルとは全く違います。

 セーラーの100円万年筆は100円ショップで見かけることがありますが、キャップの密閉性だけは抜群です。軟質プラスチック製だけあって、半年使わなくともすぐまた書けるほどだったりします(普通の万年筆はそうはいきません)。一番の問題がペン先の感触で、どうも紙にひっかかる感じでザラザラしています。頻繁に書く用途にはおすすめできません。

 ただし、数百円の万年筆でも「デスクペン」は例外で、これは比較的使いやすいものです。文具店に行くと700〜800円くらいで売られています。ペンのおしりの方が細くとがった形をして、プラスチック製のキャップの付いている、よく学校の先生や事務員のおばさんが使っている(いた)、あれのことです。安価な割にしっかりしていて書きやすいので、万年筆の手軽な入門用におすすめします。

 ただし、デスクペンはどちらかというとデスク備え付けの非携帯用です。まあ、筆箱に入れて携帯して使っても別に構いません。ただし筆箱に入ればの話ですが(デスクペンは長すぎて筆箱に入らない事があります)。それに、クリップが付いておらず、胸ポケットに入れるのには向きません。

 クリップ付き万年筆が欲しいなら、安いもので3,000円くらいからあります。物書きとか万年筆マニアでもなければ、大抵は3,000〜8,000円くらいの価格帯の万年筆で十分実用になると思います。メーカーによって、そして三桁・四桁・五桁という価格帯によって、ペン先の感触は一番大きく違ってきますから、自分の好みの書き味と予算に応じて、お気に入りを探しましょう。あとは、線の太さ、自分の気に入ったデザイン、クリップの丈夫さなども選ぶポイントです。


万年筆・べからず集

まっすぐ立てて使うべからず

 鉛筆もボールペンもまっすぐ立てて書く事ができますが、万年筆は寝かせて(傾けて)書く筆記具です。

 最近は万年筆があまり使われなくなってきたせいか、二十代以下の世代に万年筆を貸すと、まっすぐ立てて使おうとすることがよくあります。インクが出にくい上に、無理な力をかけるとペン先がダメになります。

ペン先を横向きや裏向きにして使うべからず

 万年筆を知らない世代がよくやる失敗ですが、ちゃんと方向が決まっています。ペン先の金属の、ちょうどインクの通る溝が見える面が表です。横向きや裏向きではうまく書けません。

ペン先に強い力をかけるべからず

 普通に書く時以上の強い力をかけると、ペン先がフニャフニャになることがあります。インクが出にくい時に、ペン先に強い力をかけて無理矢理インクを出す、これはペン先によくありません。インクが出にくいのはインク切れがほとんどなので、その場合はインクを交換すれば直ります。

ペン先を下に向けてインク交換すべからず

 うっかりペン先を下に向けてインク交換すると、残ったインクが垂れて服を汚してしまう恐れがあります。ペン先を上に向けて交換しましょう。気を付けてさえいれば、インクが垂れることはあまりありませんが、念のためにインクが飛んでも良い場所で交換することと、ティッシュペーパーを用意しておくことをおすすめします。

使用中のインクカートリッジをみだりに付け外しすべからず

 インク交換の時を除き、必要ない時はみだりにカートリッジを付け外ししないことです。新品カートリッジならともかく、途中まで使ったカートリッジは中に空気が入っているので、カートリッジを付けた時に、ちょうど空気鉄砲と同じ原理でペン先から勢いよくインクが出ることがあります。

キャップを忘れるべからず

 使用後にキャップを付け忘れるとインクが固まって出なくなります。忘れずにキャップしましょう。

ペン先のインク汚れに気を取られるべからず

 今にも垂れそうなほどペン先にインクの滴がたまっているなら別ですが、ペン先に少々のインクの滴が付いているくらいのことで、いちいち気にしてふき取ることはありません。そんなことしてたら、すぐインクがなくなってしまいます。ペン先が綺麗なのはカタログの写真だけの話で、ペン先にインク汚れ?が付いているのは立派にペンを使っている証拠です。そもそも、瓶インクを使っている人にとっては、ペン先にインクが付いているくらい当然のことですから。


あると便利

コンバーター

 万年筆のカートリッジの形をしたスポイトです。もちろん万年筆のメーカー毎に違います。

 カートリッジの代わりに万年筆にセットし、インク壺に万年筆のペン先を浸してインクを吸い取ります。こうすると、瓶インクを万年筆でも使う事ができます。少々面倒ではある代わりに、瓶インクの方が断然安上がりです。最近万年筆のインクカートリッジが値上がりしたため、コンバーターを使おうかと考えている万年筆愛好家は多いかもしれません。

 コンバーターを使うと、純正インク以外のインクを使うこともできます。例えば「パーカー万年筆を使っているが、純正の黒インクは青っぽいので、代わりにプラチナの黒インクを使う」といった使い方もできます。ただし私は他のメーカーのインクを使うことはあまりおすすめしません。万年筆はメーカー毎に構造が違いますが、純正インクは同じメーカーの万年筆に最適なように調整されています。私は最近コンバーターを使い始めたばかりですが、他のメーカーのインクを使ったためにインクが漏れやすくなったり、逆にインクが詰まりやすくなったりしないか、ちょっと心配です。

 欠点は、普通のカートリッジよりも入るインクの量が少ないのと、瓶インクを持ってないとインク交換ができないことです。自宅や会社等決まった場所で頻繁に使っている万年筆ならコンバーターのメリットがあるのですが、持ち歩いてあちこちで使っているのであれば普通のカートリッジの方が便利です(補充用の瓶インクを持ち歩くわけにはいかないでしょう)。用途に応じて使い分けましょう。

 また、インクが詰まった時やインクの色を変えたい時は、ペンの中にたまっているインクを洗わなくてはなりませんが、その時にも便利です。コンバーターをセットし、水を吸い取ったり出したりすると簡単にペン内を洗浄できます。瓶インクを使わない派でも、万年筆を頻繁に使っているなら、持っていて損はありません。

インク消し

 リキッドペーパーとは違って、塩素で化学的にインクを脱色する、二液式のインク消しです。「ガンジー」や「ロイド(旧・クロンボ)」などのブランドが有名です。青インクか赤インクに使えます。

 青インクはインク消しで簡単に消せる上に紫外線にも弱いので、契約書や領収書などの重要書類には使わない方が良いでしょう。黒インクならインク消しで消せないので、重要書類に向いています。

吸い取り紙

 インクが乾く時間がじれったい人は、吸い取り紙を使いましょう。私は極細のペンしか使ってないのですぐ乾くし、特に必要性を感じないので使ってませんが。


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